「常念小屋荷揚げ騒動記〜コック長ここに荷揚げを考える」






6月19日から始まったヘリコプターによる『荷上げ』が、やっと終わりました。
ここで、小屋での『荷上げ』作業がどんなようにされているのかご紹介します。
北アルプスの小屋の多くが、ヘリコプターを『東邦航空』に頼っています。機種は主として、高々度の山岳地帯に向いたSA315BA通称【ラマ】です。小松松本営業所長をはじめとするスタッフ、超ベテランのパイロットと、人材も豊富。だから、小屋でも安心しています。
小屋では物資・食糧の在庫を見て、次の宿泊者数を予想して品数を発注します。予定日になると、上高地の荷揚げ用ヘリポートに各小屋の注文された荷物が集積されます。荷揚げ当日早朝、上高地へリポートには各小屋のスタッフが数名ずつ集合。これらの荷を荷造りします。一つのモッコ(大きな網)が、500〜600`になるよう調整します。
荷の中身ですか?それは、食料品(冷食・野菜類・生ビール他)・燃料・生活用品・お土産品・工具から材木等といった、小屋に必要なものです。
同時進行で上の山小屋では、『下げ荷』が作られます。小屋で出たゴミ(登山者はゴミが持ち帰りなのでそれ以外のゴミ)・燃料の空ドラム缶・空のガスボンベ・小屋で出た廃材等です。
ヘリポートでは、いよいよヘリのフライト時間になります。常念小屋までは約10分から15分くらい。あっという間です。
「いまから飛ぶよ」上高地へリポートから電話が入ります。耳を澄まして待つこと10分。かすかにラマの音が聞こえてきたかなと思ったとたん。突然、常念西尾根から小さい黒い影が飛び出すように現れ、あっという間に頭上に迫ります。特徴的な音はすぐに【ラマ】だとわかります。誰でも一度聞いたら忘れないでしょう。機体の下には、待ちに待った物資が吊り下げられています。小屋のひとりがパイロットに手を上げ、下ろす場所を合図します。
無事に荷が下ろされると間髪を入れずヘリコプター下部のフックに「下げ荷」を掛けます。この作業は小屋のスタッフに任されています。緊張!
ヘリが自分の真上へくるのを待ち、モッコを掛けます。確実に掛かっていのを確認したら、パイロットに大きく合図します。羽根が空気をかく音が力強く変化します。小柄な機体がゆっくりと上昇していきます。ほっ。
ヘリに手を振ると、パイロットもまたそれに応えてくれることもあります。去ってゆくヘリを、「ありがとう、無事に戻ってくれ!」と見送ります。その姿が常念西尾根に消えると、ふたたび静寂が戻ります。
さて実は小屋内ではここからもうひとつの闘いが始まるのです。ほっとする間もなく荷を運びながら、ひとつひとつチェックし、分類していくんです。生野菜は、食品庫に冷凍物は冷凍室と冷凍ボックスに。ふー。まだまだあります。
売店で売られる物は売店倉庫に、工具や資材も各場所に運んで行くんです。夏の最盛期になると半月に7〜8便飛んでくるのです。この作業が、頻繁に繰り返されます。
ところでこの荷揚げ、常念だけでなく、付近の数件の小屋と共同で作業しています。他の小屋にも荷を運びます。天候にも左右され何日も飛べない日もあります。今日のいつ飛んでくるかは、上高地ヘリポートと連絡しあいながら行います。この間にも、小屋には続々とお客さんが到着します。受付・掃除・食事の仕度もしなければなりません。だから、ヘリの荷揚げの日は、朝から小屋中がもうフル回転の、フルパワーです。もうたいへん!
でも、このように順調に荷上げされるからこそ、水も飲め食事も摂れ、電気・トイレ等が登山者のみな様を含め小屋の人も利用し、生きていけるのです。
近年は登山者の数が増え、昔のように歩荷(ボッカ)で運ぶことができません。どうしてもヘリに頼らざるをえないのです。
ところで先日、東邦航空のWEBサイトでコラム2004年版を拝見しました。そこに記された、黒百合ヒュッテ・米川さん、北穂高小屋・小山さんのことばが心に残りました。ヘリによる荷揚げに関して述べています。
「便利ではあるけれど宅配便ではない。」
「山小屋の先人、先輩のみなさんが苦労して歩荷して山小屋を建て、それを守ってきた精神を見失わないようにしなければと思います。」
その通りだと思います。我々もこのことばを肝に銘じなければなりません。そして、登山者のみなさんも同じ気持ちでいたくださることを願うばかりです。
(2006年6月22日桜井記)